「東京ゼロエミ住宅」という住宅基準をご存知ですか?東京都内で家を新築するときに東京ゼロエミ住宅に認証されると、助成金の交付が受けられます。2019年に新設され、2025年度(令和7年度)も継続されている助成制度です。この記事では制度の要件や助成額について解説します。(※2025年7月時点の情報で執筆しています。)
目次
1.東京ゼロエミ住宅とは?
東京ゼロエミ住宅とは、東京都が推進する「脱炭素社会の実現」を目的とした住宅の省エネルギー施策です。断熱性能や高効率設備、再生可能エネルギーの導入によって、家庭からのCO₂排出を削減しながら、快適な暮らしを実現する“次世代型の住宅”と言えます。
都内で新築される住宅において、一定の性能基準を満たすことで、東京都から補助金が交付される制度です。これまでの省エネルギー住宅基準である「ZEH(ゼッチ)」よりもさらに高い基準を設定していることが特徴です。また、基準に適合する住宅を新築するときには「東京ゼロエミ住宅普及促進事業」として、住宅性能に応じた助成金の交付が受けられます。
2.東京ゼロエミ住宅のメリット
① 光熱費を抑えることができる
ゼロエミ住宅は、断熱性と省エネ性能が非常に高いため、冷暖房効率が良くなり、年間の電気・ガス代を抑えることができます。
例えば、一般的な住宅と比べて年間5〜10万円以上の節約が可能という試算もあります。
また、太陽光発電や蓄電池を導入すれば、自家発電による電気の自給も可能になり、電気代の高騰リスクにも備えられます。
② 夏も冬も快適に暮らせる
高性能な断熱材や窓を使用することで、外気温の影響を受けにくくなります。
その結果、夏は涼しく、冬は暖かいという快適な室内環境を実現。部屋ごとの温度差も少ないため、ヒートショックのリスクも低減されます。
③ 補助金で初期費用を抑えられる
東京都の補助制度により、住宅性能の向上にかかる追加コストを最大240万円程度までカバーできます。
これにより、より高品質な住まいを手の届く価格で建てることが可能になります。
さらに、太陽光発電や蓄電池などの環境性能を高める設備を導入した場合、追加の補助が上乗せされる場合もあります。
④ 住宅の資産価値が高まる
今後、住宅市場では省エネルギー性能の高さが住宅評価の基準となっていく流れがあります。
「性能の見える化(BELS評価など)」が進む中で、ゼロエミ住宅のような高性能住宅は、将来の資産価値を下支えする存在になります。
また、省エネ性能の高い家は、長期優良住宅や低炭素建築物など他の認定とも相性が良く、将来的なリフォーム・売却時にも有利です。
⑤ 地球環境に優しい
東京ゼロエミ住宅は、CO₂排出を抑え、未来世代にやさしい住まい方を選ぶことでもあります。
目先の経済的なメリットに加え、「自分の暮らしが社会課題の解決に貢献している」という精神的な満足感も得られるでしょう。
3.東京ゼロエミ住宅のおもな要件
東京ゼロエミ住宅の補助金を受けるためには、一定の性能要件を満たす必要があります。これらは「快適でエコな住まい」を実現するための技術基準であり、東京都が定めた認証レベルに基づいて段階的に評価・補助されます。
2025年度の主な要件は以下の3つです。
① 高断熱性能:建物の“熱の逃げにくさ”が基準以上
住宅の外皮(壁・屋根・床・窓など)の断熱性能を示す**UA値(外皮平均熱貫流率)**が一定以下であることが求められます。
主な基準値(戸建住宅の場合):
- ゼロエミ住宅(標準レベル):
→ 断熱等性能等級6以上(UA値 ≦ 0.46) - ハイグレード(上位レベル):
→ 等級7相当(UA値 ≦ 0.26)※省エネ性能を大きく上回る水準
この断熱基準を満たすことで、冷暖房効率が向上し、快適性と省エネ性の両立が可能になります。
② 高効率な省エネ設備の導入:エネルギーの使い方を効率化
以下の4つの設備カテゴリのうち、すべての項目で基準を満たすことが要件です。
設備カテゴリ | 例 | 要件例(※代表的な機器) |
---|---|---|
給湯設備 | エコキュート、エネファームなど | 「省エネ基準トップランナー制度」対象機器など |
空調設備 | 高効率エアコン | 省エネ性能が高い最新モデル |
照明設備 | LED照明全室設置 | すべての照明をLED化 |
換気設備 | 熱交換型換気扇など | 熱交換効率が高い第一種換気システム推奨 |
これらの設備は、家庭でのエネルギー消費の多くを占める分野であり、効率化によって電気代の削減にもつながります。
③ 再生可能エネルギー設備の導入(任意加点要件)
太陽光発電システム(PV)などの再エネ設備は、必須ではありませんが、導入すると補助額が加算される仕組みです。
主な加点対象例:
- 太陽光発電システム(容量に応じて加点)
- 家庭用蓄電池
- HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)
これらの設備は、災害時のレジリエンス(自立性)向上にもつながり、将来的な光熱費の変動リスクにも備えることができます。
4.東京ゼロエミ住宅の助成金額
・水準A・B・Cによる住宅本体への助成額(戸建・集合住宅)
この制度では、住宅の認証レベルに応じて以下の助成区分が設けられています。
水準 | 戸建住宅 | 集合住宅(一戸あたり) |
---|---|---|
水準C(ベーシック) | 40万円 | 30万円 |
水準B(スタンダード) | 160万円 | 130万円 |
水準A(ハイグレード) | 240万円 | 200万円 |
→水準Aの戸建住宅では最大240万円の助成額が受けられます 。
・ 太陽光・蓄電池・V2Hなどの設備に対する助成内容
住宅本体の助成に加え、設備の設置にも支援があり、組み合わせることで大幅な補助が可能です 。
・太陽光発電システム(3.6 kW以下の場合)
- オール電化住宅:13万円/kW(上限39万円)
- オール電化以外:12万円/kW(上限36万円)
・ 太陽光発電システム(3.6 kW超~50 kW未満)
- オール電化住宅:11万円/kW
- それ以外:10万円/kW(50 kW以上は対象外)
また、小型パネルや陸屋根用架台などには加算措置あり。
・ 蓄電池
- 12万円/kWhの助成(未使用品・SII登録製品)
・ V2H(電気自動車と連携して家に給電)
- 機器費等の1/2を補助(上限50万円)
- 電気自動車持ち+太陽光設備ありなら全額補助(上限100万円)
・助成額の合計イメージ(戸建住宅・水準A)
下記のように組み合わせた場合、合計約400万円の大きな補助も可能です(住宅性能+設備):
- 住宅本体(水準A):240万円
- 太陽光発電(例:3.6 kW):約47~50万円(住宅仕様で変動)
- 蓄電池(例:5 kWh):60万円(12万円×5)
- V2H使用:50万円(上限)
➡️ 合計:約400万円の支援に。
※水準や設備容量・仕様により額は変動します。
5.注意すべき申請スケジュールと手続きの流れ
東京ゼロエミ住宅の補助金は、事前申請制・先着順です。
「気づいたら申請できなかった」ということにならないよう、スケジュール感と流れを把握しておくことがとても重要です。
・申請〜補助金受取までの6ステップ
ステップ | 内容 | ポイント |
---|---|---|
① 相談・計画開始 | 登録事業者と性能確認・プラン作成 | 補助対象は“登録事業者”が関与したものに限られる |
② 性能要件の確認 | 断熱等性能等級6以上+設備条件 | 要件を満たさないと申請できないため、事前確認必須 |
③ 補助金の交付申請(着工前) | 設計内容・図面・計算書を元に都へ申請 | 建築確認申請よりも前に交付申請が必要 |
④ 工事着工・実施 | 補助対象に認められた後に着工 | 交付決定前に着工すると無効になるため注意 |
⑤ 工事完了後の報告 | 完了実績報告・証明書提出など | 写真・領収書・性能証明などの書類が必要 |
⑥ 補助金交付決定→振込 | 書類審査通過後、都から補助金が支給 | 指定口座へ入金され、完了 |
・ スケジュールで注意すべき点
申請期間(2025年4月1日~2026年3月)
※ただし、予算上限に達し次第終了となる場合あり
- 着工前の申請が必須
補助金の「交付決定通知」を受ける前に工事を始めると、対象外になります - 認定・評価などには一定の審査期間あり
申請〜交付決定までに数週間〜1か月程度かかることも - 工事完了後の報告も忘れずに
補助金を受け取るには、実績報告書の提出が必須
・登録事業者との連携がカギ
東京ゼロエミ住宅の申請は、登録事業者(設計・施工会社)が行うことが原則です。
そのため、最初の相談段階からゼロエミ制度に精通した専門家と一緒に進めることが、確実に補助金を受け取るための最大のポイントとなります。
6.高性能住宅の専門家からのアドバイス
高断熱・高気密な設計は「快適さ」だけでなく、健康性や住まいの耐久性にも大きく影響します。補助金を目的に性能を上げるだけでなく、将来のライフスタイルやエネルギーコストを見据えた設計が重要です。
当事務所では、パッシブ設計+省エネ性能を軸に、ゼロエミ住宅を超える快適性・環境性の実現もサポートしています。
7.まとめ|ゼロエミ住宅は“未来のふつう”になる
ゼロエミ住宅は、東京都の脱炭素政策を先取りした住宅スタンダードです。今後、全国的にも同様の基準が広がっていくことが予想される中、**いま家を建てる方にとっては“先進的”でありながら“賢い選択”**とも言えるでしょう。
補助金制度を活用しつつ、快適で持続可能な住まいづくりを始めてみてはいかがでしょうか。